復職可能の診断書が出ても、復職できるとは限らない?
- stayfitclinic
- 3 時間前
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「診断書が出たのに復職できないのはおかしい?」という誤解
「主治医から復職可能と書かれた診断書をもらったのに、産業医から“復職は難しい”と言われた。」
実際、職場でこのようなケースは少なくありません。
一見「矛盾」しているように見えますが、
診断書の“復職可能”と、会社の“復職可”は別のものなのです。

主治医と産業医の役割の違い
まず押さえておきたいのは、主治医と産業医の立場の違いです。
主治医:患者本人の健康回復を最優先に考える立場。
産業医:会社(職場)における安全配慮と健康リスクを判断する立場。
主治医は「日常生活を送れる状態」まで回復したら“復職可能”と判断することがあります。
一方で産業医は、「その人が実際に職場環境や勤務条件のもとで働けるか」を総合的に見ます。
つまり、
主治医の診断書=生活上の回復、
産業医の判断=職場環境での再適応
という視点の違いがあるのです。
判例でも明示されている「会社の最終判断権」
復職をめぐるトラブルは過去にも多く発生しており、裁判でも
「復職の可否は会社が最終的に判断する」
という立場が一貫して認められています。
東京パワーグリッド事件 ― 主治医の診断書だけでは復職できない
東京地方裁判所平成29年11月30日判決(東京パワーグリッド事件)では、
主治医の診断書で「復職可能」とされたにもかかわらず、会社(産業医)が復職を認めず、
その判断が適法とされました。
裁判所は次のように指摘しています。
主治医が「復職可能」と診断したとしても、それはあくまで医師としての医学的な見解にすぎず、実際に職場で就労できるかどうかは会社が総合的に判断すべき事柄である。
さらに、同医師の就労可能という見解は、リワークプログラムの評価シートを参照しておらず、必ずしも職場の実情や従前のXの職場での勤務状況を考慮した上での判断ではないとされました。
また、会社は復職にあたり、
勤務時間帯の生活リズムが整っているか
業務遂行能力(集中力・疲労回復・再発リスク)が十分か
産業医面談での適応状態に問題がないか
といった要素を確認していました。
裁判所はこれらの対応を「合理的な判断」と認め、
主治医の診断書だけでは復職の可否を決められないと明確に述べています。
この事件は、産業医・会社・主治医、そしてリワークプログラムのそれぞれが異なる役割を持つことを社会的に示した重要な判例といえると思います。
ホープネット事件 ― 復職判断は会社が行うべきとされた事例
もうひとつの代表例が、ホープネット事件(東京地裁平成21年10月27日判決)です。
この事件でも、うつ病で休職した社員が主治医から「復職可能」と診断されたものの、
会社側(産業医含む)が「休職前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していない」と判断して復職を認めませんでした。
社員は「診断書があるのに復職を拒否されたのは不当だ」と訴えましたが、
裁判所は次のように述べています。
会社は、安全配慮義務の観点から、労働者本人や職場の安全・健康に支障が生じないよう、産業医の意見を踏まえて復職可否を判断する義務を負う。
つまり、会社が医学的・職場的リスクを考慮して復職を見送ることは、
むしろ「安全配慮義務の一環として正当」と判断されたのです。
厚労省「職場復帰支援の手引き」に基づく判断基準
厚生労働省が公表している『心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き』では、
以下の項目を満たすことが復職判断の目安とされています。
<職場復帰の判断基準>
労働者が十分な意欲を示している
通勤時間帯に一人で安全に通勤ができる
決まった勤務日・時間に継続就労が可能である
業務に必要な作業ができる
作業による疲労が翌日までに回復できる
睡眠・覚醒リズムが整っており、昼間に眠気がない
業務遂行に必要な注意力・集中力が回復している
これらを確認するために「生活記録表」などの客観的データが重視されます。
単に“元気そうに見える”だけでは不十分で、勤務時間帯での活動耐性を示す必要があります。
復職の鍵は「休職中の過ごし方」にある
診断書をもらっただけで安心してしまう方もいますが、
復職の可否を左右するのは「休職中に何をしていたか」です。
✅ 生活リズムを整える
就寝・起床時間を固定し、出勤時間に合わせた生活を送る。
✅ 活動量を戻す
外出や軽い運動、趣味などを通じて日中活動を維持する。
✅ コミュニケーションを再開する
家族・友人・リワーク施設などで人との関わりを取り戻す。
✅ ストレス耐性を確認する
同じ環境に戻ったとき、再び体調を崩さない準備を整える。
これらの「社会的機能の回復」を確認することが、復職面談の目的でもあります。
主治医、産業医、人事・上司が連携し、安全に働ける環境づくりを行うことが理想です。
まとめ|診断書は“ゴール”ではなく“スタートライン”
診断書の「復職可能」は、医学的な目安に過ぎません。
実際に職場へ戻るためには、生活・職場・心身の3要素を整えることが欠かせません。
もし今、
「診断書は出たけれど体調に不安がある」
「会社と主治医の間で意見が食い違っている」
そんな方は、一人で悩まずに専門家に相談してください。
Stay Fit Clinicでは、復職支援・メンタルケア・生活リズムの整備を産業医の視点からサポートしています。
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Stay Fit Clinic 院長 薮野淳也
著書『産業医が教える会社の休み方』(中公新書ラクレ)
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